
映画「オッペンハイマー」を観てきました
こんにちは、お久しぶりです!
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今年の4月に東京から横浜に引っ越しをしました。
物件探しから家の売却、引っ越し準備、家具選びに夢中になり、気づけばもう半年が過ぎようと。
そして気づけば、今年はほぼブログを書いていませんでした!
今回は久々に最近観た映画の記事を書きたいと思います。

これは絶対に映画館で観ようと決めていた映画
「オッペンハイマー」
引っ越しに気を取られすぎていたため、危うく見逃しそうになっていたのですが、ギリギリ観に行ってきました。
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「オッペンハイマー」は、本年度アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞の、今年最多の7部門を受賞し、見事に今年のアカデミーの栄光を勝ち取った作品。
アカデミー賞では作品、監督、主演男優、主演女優が主要4部門と言われていて、それを全て受賞するのは最高に名誉な事とされています。
今回その内の3部門を受賞したのは、素晴らしい快挙だったと思います。
最近の受賞で、作品、監督、主演女優の3部門を受賞した作品は
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2023)
「ノマドランド」(2021)
など。
豆知識として、歴代でその輝かしい4部門を見事に受賞したのは
「ある夜の出来事」(1943)
「カッコーの巣の上で」(1975)
「羊たちの沈黙」(1991)
の3作品だけ。

「オッペンハイマー」
クリストファー・ノーラン監督による、「原爆の父」と呼ばれ、原子爆弾の開発を成功に導いた物理学者ロバート・オッペンハイマーの、栄光と衰退を描いた伝記映画になります。
3時間を超す長編大作映画で、世界興収10億ドルの大ヒットとなり、伝記映画では歴代一位を記録。
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まずは、何よりも第一声をあげたいのは
「ノーラン監督、本当に本当におめでとう!!!」
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クリストファー・ノーラン監督は、あれだけたくさんの大作を世に送り出しながらも、今までアカデミー賞の目玉でもある作品・監督賞は無冠でした。
まるで「シンドラーのリスト」を受賞する前のスピルバーグのように。

彼の映画の特徴はとにかく
“「時空」を行ったり来たりする”
前世の記憶でもあって昇華したいのか、時空をどう歪ませて表現するかは、彼の映画のテーマそのもの。
一貫しています。
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デビューから2作目の「メメント」(2000年)は、今までの映画と感覚が全く異なり、衝撃を受けたのを覚えています。
そこから、「ダークナイトシリーズ」「インセプション」「インターステラー」「ダンケルク」など、どれも画期的なアプローチで、大ヒットと脚光を浴び続けてきました。
まさに、時間軸を自由自在に操る天才監督ノーラン。
映画業界に影響を与えた監督の1人であるのは間違いありません。
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真の天才は、周囲の嫉妬によって潰されしまうのか。
アカデミー賞に関してはなかなかご縁がなく。
個人的には「インターステラー」は、アカデミー作品賞を獲るべき映画だろう!と、叫びたくなるほどの名作だと思うのですが、ノミネートすらされませんでした。(その後の作品「ダンケルク」は作品、監督賞初ノミネート)
今回の主要部門を合わせた7部門の受賞は、ノーランにふさわしいの一言です。

また、彼の映像へのこだわりはデビュー当初から強く、その辺りはずっと評価され続けています。
「インセプション」の歪んだ夢の世界の描き方はものすごく新感覚でしたし、「インターステラー」では別宇宙の惑星空間がリアルに伝わってきて衝撃を受けました。
思わずその惑星にいて、息ができなくなった錯覚を受けたほど。
主人公のマシュー・マコノヒーが、本棚を通して時空の隙間に入り込んで娘と交流するシーンなんて圧巻でした。
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さらに、毎回あれだけのすごい映像なのに、本人はCG嫌いでアナログ志向というのは驚きです。
ほとんどの映画監督がデジタルカメラで撮影している中、彼はいまだにフィルムを使用しています。
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また、今回「オッペンハイマー」の撮影にあたりWikipediaからの抜粋をすると
「トリニティ実験の爆発はCGIの使用を控えるノーランの方針を尊重し、燃料と火薬の爆発を高速度撮影し、デジタル合成を組み合わせて表現した。オッペンハイマーが見る量子力学の幻にも、合成を使わず現場で同時に撮られたものが多い。」
とのこと。
オッペンハイマーの脳裏を描いた、あの幻想的な映像シーンの数々がアナログだったとは、、。

また今回奇抜なのは、モノクロとカラーのシーンが交差します。
オッペンハイマー目線をカラーに。
もう1人の重要人物、ルイス・ストローズの目線をモノクロに。
2人の人物の目線によってストーリーが展開していきます。
これは予備知識なしでは理解するにはものすごく難しい。
通常は回想シーンや過去、または、キーとなる部分を際立たせるために、カラーとモノクロの演出を使い分けていたりしますが、二人の人物目線なんてのは初なのではないでしょうか。
ノーランらしい憎い見せ方です。

この映画の2人目のキーパーソン、ロバート・ダウニー・Jr扮するルイス・ストローズ。
監督は、ロバート・ダウニー・Jrに演技指導をするにあたり
ストローズは映画「アマデウス」のサリエリである
と伝えたそうです。
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モーツァルトの才能に嫉妬するサリエリ。
皮肉な事にモーツァルトの凄さを誰よりも見抜き、嫉妬に狂った挙句、彼を死に追い詰めてしまう。
ストローズも、オッペンハイマーの科学者としての栄光と才能に嫉妬をして、貶めていきます。
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毎回見ていて思うのですが、ノーラン監督は、人間の闇の部分をとても丁寧にリアリティを持って描いています。
背きたくなるような人間の嫌な部分。
妬み・狡さ・弱み・トラウマなどの利己的な部分を、登場人物の主題としています。
“人間の心の闇を描く”
彼のもう一つの作品のテーマのように感じます。
「ダークナイト」が分かりやすい例で。
アメリカが誇るアメコミヒーロー、バッドマン。
正統派ポップコーンムービーであったバッドマンの世界観をガラリ変えてしまい、2008年の公開当時、世界に衝撃が走りました。

そしてもう一つ、「オッペンハイマー」をまだ観ていない方へのアドバイスは
“観る前に、ストーリーと登場人物を予習しておいた方が絶対良い”
とにかく登場人物が多い!
その上話の展開が早い分、現れたかと思えば次々に場面が変わっていく。
「原爆の父」という、世界に、いや地球に多大な影響を与えた彼の半生を、3時間の映画に集約するにはちょっと無理があったのでは、、と思わずにはいられない。
その上、ノーラン節が効きまくった、時空の歪み戦術です。
カラーとモノクロの意味は何??
このシーンは、過去?現在?未来?
予備知識なく観るのは、相当理解に苦しみます。
私も今回は予習して観に行ったのですが、途中から訳がわからなくなりました。
すっかり諦めまして、全てを把握しようとするのではなく、映画の雰囲気を楽しもうという方向にシフト。
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さらには、主役級の豪華俳優陣を、脇役に固めまくったのも見どころの一つですかね。
ロバート・ダウニー・Jrをはじめ、マッド・デイモン、ラミ・マレック、ケイシー・アフレック、ケネス・ブラナーなどなど。(下火になっているジョシュ・ハートネットもいます 笑)
とにかく脇役を大物俳優で固めまくっています。
ルーズベルト役のゲイリー・オールドマンの出演なんて1.2分で終わってしまう。ここまで早いと、もはや友情出演なのか!?

そして華麗なる女優陣。
現在ハリウッドで油が乗りまくっている、エミリー・ブラントと、フローレンス・ピューのダブル出演。
本当贅沢ですよね〜。
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また、重いテーマとなるのですが、日本人として「オッペンハイマー」をどう観るか。

映画を日本で上映するかしないかの議論が行われ、公開が先延ばしになっていました。
日本は原爆を落とされた世界で唯一の国です。
日本人として原爆への特別な思いを感じるのは当然のこと。
国民規模での大きな原爆への性があります。
ノーランをはじめ、人間誰しも性があるように。
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日本人としての私なりの感想を言うなれば
“もっと原発の被害の描写を描いて欲しかった”
原爆が落とされた後、成功を祝ってオッペンハイマーが演説するシーンがあるのですが、広島で起こった惨劇を、オッペンハイマーは天才が故に感じてしまう、見えてしまう。
彼の脳裏には演説を聞きに集まっている人が、次々に原爆を浴びて、溶けていき真っ黒な死体となっていきます。
その重要なシーンなのですが、描き方が控えめで生ぬるいと思ってしまいました。
人間の粒子そのものが一瞬で溶けて消えてしまった、悍ましい現象を。
皮膚が溶け、目や骨が飛び出て砕けていく、壮絶な死に様を。
黒焦げになったたくさんの死体の山々を。
水を水をと、うめきながら亡くなっていった人々の無念さを。
目を背けたくなるほどに、もっと緻密に詳しく描いて欲しかった。
オッペンハイマーの伝記映画であればこそ尚更です。
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映画評論家でアメリカ在住の町山智浩さんのテレビ番組
「町山智浩のアメリカの今を知るTV」

町山さんがアメリカ各地を訪れて、日本では知られていないアメリカの今を紹介していく番組なのですが、それがものすごく面白くて。
映画の舞台になっている、研究所があったアメリカのニューメキシコ州にある「トリニティ研究所」。
今は歴史博物館になっていて、観光地となっているのですが、町山さんがそこに訪れる会があり、とても興味深く観ました。
こちらのyoutubeで観ることができます。
そこに来る人たちは、原爆のことを知りたい大学教授もいれば、ただ暇だから観光し来た人、原爆好きな若者など、多種多様な人が来ていて。
原爆の恐ろしさを全く知らない人や原爆を崇高している人、日本に原爆が落ちたことは正しかったと言う人もいました。
世界全体から見ると、原爆への知識は日本よりも全然少ないんだなと思いました。
そのような方達の意見を聞いていると、もっと原爆の悲惨さや惨さを知ってほしいと思わずにはいられません。
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そしてもう一つ、マイケル・サンデル的な論議。

原爆が誕生して半世紀以上経った今、悪魔を作ったオッペンハイマーに罪はあるのか。
そこはものすごく難しくて、三者両論分かれるところですよね。
私は、彼はきっかけの1人であって、「罪」という表現には当てはまらない気がします。
彼が発明しなくても、別の人によって同じ運命を辿っていたと思いますし。
逆らえない大きな大きな時代の歯車に巻き込まれてしまった、たまたま選ばれてしまった1人なんだと思います。
「運命を背負ってしまった人」
そんな表現が正しいように思います。
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「原爆の父」と言われ、十字架を担ぐことになってしまったオッペンハイマーという、天才であると同時に欠点だらけの人物像を、ノーランはこの映画で描き切っています。
「博士の異常な愛情」や「ドント・ルック・アップ」のように、地球が滅亡してから人類はようやく気付く。
悲しいことに、それも全人類の性のように思います。
これだけ人間らしく不完全なオッペンハイマーが原爆の生みの親なのだから。
映画を見終わった後に、妙に納得してしまったのは私だけではないはずです。